いつか見る青
感慨深い思いを抱きながら室内を見渡しているうちに、何だか私は目頭が熱くなって来た。


「あ……」


止める間もなく、滴がツツ、と頬を伝う。


「葵さん?」


民さんが、私に近付きながら心配そうに声を掛けて来た。


「す、すみません。お母ちゃんの事思い出して、何だか気が昂ってしまって……」


あ。


しかもまたもや「お母ちゃん」と言ってしまった。


一人あたふたしていると、民さんはエプロンのポケットからハンカチを取り出して差し出してくれた。


「あ、ありがとうございます」


自分のは持ってなかったので、素直にお借りする。


「『お母ちゃん』って、すごく懐かしい響きだわ」


民さんはふふ、と笑いながら続けた。


「私も母のことはずっとお母ちゃんと呼んでいましたからね。だからよろしいんですよ、遠慮なさらなくて」


「え……?」


「私の前では『お母ちゃん』と言っても。ありのままの、葵さんでいて下さい」


その言葉に、私の涙腺はさらに大変な事になった。
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