いつか見る青

室内に響いたノックの音に、「開いてるよ」と声を返すと、静かにドアが開いた。


「お邪魔します」


「おう」


来訪者が未来だというのは分かり切っていたので、机に向き合い、手元の本に視線を走らせながらおざなりに返事をする。


「お風呂、先にいただきましたよ」


「ああ」


「で、脱衣所を出て廊下を歩いてたら……」


「え?」


途中で切られた言葉が気になり、回転式の椅子を動かして未来に体を向けると、神妙な顔つきで戸口に佇んでいた。


白のTシャツとグレーのハーフパンツ、首にはタオルを巻き【いかにも風呂上がり】という感じの格好だ。


ざっとドライヤーをかけたようで、髪はほとんど乾いてはいるけど若干しんなりしている。


入浴によって開いた毛穴からいまだ汗が吹き出すようで、しきりにタオルで顔を拭っていた。


「歩いてたら、何だよ?」


「……いえ」


俺の問いかけに、未来は何故か一瞬考えたあと、ドアを閉めつつ答えた。


「なき声が……かすかに聞こえて来たんですよね。多分、猫だと思うんですけど」
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