いつか見る青
「いや…、でも、俺が生まれる前の事だし、母親もその事にはもうこだわってないというか……」


未来は一言一言、慎重に言葉を紡いだ。


「そもそも、最初から奪われたとか裏切られたとか、そんな考えは微塵も無いと思いますよ。何しろその当時すでに父親にゾッコンだったみたいだし」


そこで未来は苦笑する。


「何せ、母親の方から猛烈にアタックして、結婚まで漕ぎ着けたって話ですからね。瑠璃さんに対しては、恨むどころかむしろ、すごく同情的ですよ」


「……それは、今日子さんが信じられないくらい寛大なだけで……」


不機嫌に呟いた俺の言葉に、未来は即座に反応した。


「そりゃ、寛大にもなるでしょうよ」


「え?」


「厳しくも優しい、良識的な両親に愛情たっぷりに大切に育てられて、健康にも恵まれてお金に苦労なんかした事なくて、当たり前のように高度な教育を受けられて望む通りの仕事に就けて、最愛の人とも結ばれて。何もかも思い通りの人生を生きている人なんですから、心に余裕が出るのは当たり前の話です」
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