いつか見る青
「母さん、どうだった?やっぱ寝てた?」


言いながら、民さんの正面の椅子に腰掛ける。


「ええ。昼間、着替えをお届けにお邪魔した時にはぐっすりでした。お薬使うと、どうしてもウトウトするみたいですね。でも、痛みを取ることが最優先ですから」


「そうだね……」


母さんの苦しむ顔なんか見たくない。


「栄養は点滴で取ってますけど、何だか味気ないですよねぇ。お食事する楽しみがないだなんて」


民さんは辛そうな表情でため息を漏らすと、俺に改めて視線を合わせた。


「だから紫さん、奥様の代わりに、たくさん召し上がって下さいよ。それが一番の親孝行ですよ」


「うん。分かってる」


俺は何故か民さんの言うことなら素直に耳に入って来た。


俺が産まれる前からこの家で働いていて、家族よりも家の中のことを熟知している人。


その歴史に敬意を払わずにはいられない。


それにこの人は、この家が色々大変だった時期に黙々と働き、家族を陰で支え続けてくれた人だから……。


中立な立場である彼女は必要以上に誰かをかばうことも責めることもしなかった。
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