いつか見る青
ただ自分のやるべきことを淡々とこなしていただけだ。


だけどその姿を間近で見られたお陰で、俺達家族は冷静さを取り戻せたのかもしれない。


そうだ、あれはもう過去のことなんだ。



その思い出に蓋をし、やっと悲しみを乗り越えられたと思っていたのに、何故いまになって……。


何故母さんを、穏やかな気持ちのまま逝かせてやらないんだ。



『人殺し!』



穏やかで上品な母さんが昔一度だけ見せた、鬼のような形相。


あの女に掴みかからんばかりの勢いで、半狂乱になりながら喚き散らしていた。


幼い日に目にしたその光景は、今もなおトラウマとなって俺の胸を締め付ける。


カップを流し台に置き、民さんに声をかけ、俺は2階へと上がった。


自分の部屋を通り過ぎ、一番奥に位置する部屋のドアを静かに開ける。



部屋の明かりはつけなかった。


外はまだうっすらと明るい。


その明かりだけで、部屋の中の様子は充分見てとれる。



10畳分ほどの広さがある洋間で、ベッドが二つ並んでいるが、片方のベッドはもう長い間使われていない。
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