いつか見る青
一瞬気まずい空気が流れる。


「…あ、そうだ」


神崎さんが、突然何かを思い出したかのように声を上げた。


「葵さん、携帯番号とアドレス、お聞きしておいて良いですか?」


重苦しい雰囲気を払拭するような、とても明るい声音で。


「これから色々と連絡を取り合うこともあるでしょうし。お話できない時はメールでやり取りできますしね」


言いながら、ケータイを取り出そうとしているのか、神崎さんはスーツの胸ポケットを手で探る。


「あ、えっと」


私はちょっと言い淀んだ。


「私、携帯電話は持ってないんです…」


「え?」


「高いし、月々の使用料もかかるし…。大学生になってから持とうかな、と思ってて」


「…そうですか」


神崎さんはポケットを探っていた手を静かに下ろした。


ポーカーフェイスだけど、内心すごくびっくりしただろうな。


『今時の高校生がケータイも持ってないのか』って。


実際、クラスメートにはすごくびっくりされたし。


引越しを機に辞めたけど、つい最近までバイトしてたから、その気になれば買えないこともなかったんだけど…。
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