いつか見る青
お母ちゃんこそ、好きなように使ってくれれば良かったのに……。


「さて」


自分の世界に入り込んでいた私は神崎さんの声にハッと我に返った。


「社長がお帰りになるまで、お屋敷内の探検といきましょうか」


神崎さんはにこやかに続ける。


「食堂や洗面所の場所を把握しておいた方がいいですからね」


「…良いんですか?」


「ええ。ただ、個人のお部屋の中までは私はご案内できないですけど」


「あ、はい。もちろんです。ざっと説明してもらえるだけでもすごく助かります」


私はすごく嬉しくて、思わず「エヘッ」と笑ってしまった。


「神崎さんがいてくれて良かったです」


民さんも叔父さんも忙しそうだもんな…。


「祖父が帰って来るのをここで一人で待つの、すごく心細かっただろうし…」


話している途中で、私はドキッとした。


またもや神崎さんが、微妙な表情で私を見つめていたから。


「…それでは、行きましょうか」


神崎さんの手が優しく背中にまわされて、それに促される形で私は歩き出す。


彼はドアを開けて、先に私を廊下へと出してくれた。
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