××倶楽部
背後から殺気を感じて、振り向くと、典が私の携帯に耳をつけて盗み聞きしている。
信じらんないっ! バカ典!
「……っちょ!」
『町田さん、どうかしましたか?』
「あ! いえ、アハハハ……」
『そういえば、デートの話ですけど、サイクリングデートなんていかがです? 僕そういう普通のデートをしてみたくて』
典は私の胸の前で腕をクロスさせた。私は電気椅子に張り付けにされた囚人みたいに会話を続けるしかない。
背中には典の厚い胸板を感じる。
「サイクリングデートですか? それいいですね。お天気が良ければ気持ちよさそう、でも
社長のマウンテンバイク速そうですね」
『あはは、まさかハイスピードでサイクリングデートなんてするわけないじゃないですか。のんびり川沿いを並んで走るのなんてどうですか?』
「はい、それなら喜んで……」
冷や汗をかきながら、必死に会話を紡ぎ出して、なんとか話をきりやめて無事に通話終了ボタンを押した時にはどっと疲労感が押し寄せる。
「バカ典…………聞き耳たてないでよ!」
典の腕はそのままだ。私の肩に顎をのせてムッと唇を突き出した。
「…………うるせぇ、おまえが遊ばれてんじゃないか聞いててやったんだよ」
「余計なお世話です!」
はぁ、とため息が私の耳を刺激する。社長からの電話でクールダウンした体は、まださっきの熱を忘れたわけじゃない。
「ほんと、余計なお世話だったな。ちゃんと大事にされてるじゃん」
典の腕にギュッと力が入る。