××倶楽部
ただいま! とタイミングよく、典の声がする。
「げ、典。もう帰ってきたし……」
「なんで幼なじみが芽依家に帰ってくるんだよ?」
「いえ、それには色々と複雑な諸事情がございまして……ああ、典!」
ミーナ様がグラスのビールを飲み干すと、お兄ちゃんがいそいそとお酌する。
「芽依、ただいま。てか、誰その女」
「のっ、典! お願い、ちょっと来て!」
リビングに入って来ようとした典の手を掴んで、廊下に出ると、そのままお風呂場の脱衣場に入りドアをしめた。
「なんだよ、芽依。さかってんの? いきなり密室に俺を押し込むなんていい根性してんな」
スーツ姿の典は、ニッと笑うと私の顎に指をはわせて、すっと上を向かされた。
「ち、違うってば! 今、そんな呑気な話してる場合じゃないの! バカ典!」
ち、つまんねー、とネクタイを緩めた典がやけに色っぽく見える。スーツ着てると別人みたいだからだぁ……
「典、悪いけど緊急事態だから帰って」
「はぁああ? ふざけんな! 帰ったら俺の飯がねーだろ! オヤジはオヤジでオフクロがいないのをいいことに、どっか遊び行ってんだよ。それに今日は朝から芽依の手料理が食えるからって楽しみにしてた俺のこの純な気持ちをおまえ踏みにじんのか? 最低」