××倶楽部
お兄ちゃんまで、そんな…………
私と典って、ただの仲がいい幼なじみだったのに。周りの人は、ずっとそんな目で見てたってこと?
「フィアンセってわけじゃないんだけど……」
「そうでしたか……おかしいなぁ、アキさんは私に嘘はつかないはずなのに」
「嘘っていうか、ジョークじゃないですか? お兄ちゃんジョーク! みたいな」
雫さんは、ウケたらしく、お腹をかばうように吹き出す。
「おまっ! 本当にムカつく!」
「それはこっちの台詞だってーの、女王様て口と頭が悪ければ誰でもできるんじゃねーの!」
「喧嘩うってんのか?」
「うってねーよ、相手にしてねーし」
ミーナ様が、この野郎! と典に飛びかかった。
「雫さん、ここ危ないから避難しましょう。泊まりますよね?」
「え、いいんですか?」
「もちろん!」
雫さん、可愛い。目がきらきらしちゃってる。お兄ちゃんが惚れたのに納得。
「てめぇ! ぶっ飛ばす」
「女のくせに、ぐーで殴るじゃねーよ!」
「はやく行こう。雫さん」
────「うわ……最悪……」
それからしばらくして、大格闘場と化したリビングに戻ると、ビールの空き缶と酔いつぶれたお兄ちゃんがそのまま放置してある。
妊婦さんの雫さんは、和室にお客様用布団を敷いて先に寝てもらった。
典とミーナ様もソファーの右側と左側にもたれかかって、眠りについてた。激しくやりあったからかお互い小さい痣みたいのができてますけど、見なかったことにしよう。
お酒を一滴も飲まなかった私は、時計が十二時になるのを待って家の外に出た。
よし、誰にも気がつかれてない!
そこには、もう社長が来ていて、「芽依!」と広げられ用意された両手に私はすっぽりとおさまる。
社長の腕の中は、リオ様の香水のかおりで満ちている。あの冷たく鋭く私を見てきたリオ様が、ここはあなたの場所じゃないわ、と言ってるみたいで顔をあげた。
「ああ、どうしてそんな泣きそうな顔をしてるんですか? ミーナさんが何かしましたか?」