××倶楽部

 ううん、と首を振って、社長からのキスを受け入れる。


 大変な恋を選んじゃったな、と寂しくなるキス。


 目を閉じて、うっとりと甘く酔いしれるのは、ほんの一瞬で、目を開くと辛口の現実が待っている。



「今、スミレさんを送ってきたところで僕はすぐ戻らないとならなくて……」


 わかってる。きっと、リオ様が待ってるんだ。


「はい……会いに来てくれてありがとうございます」


「芽依、すぐに皆さん理解してくれますよ。だから落ち込まないで。ね?」


「落ち込まないではいられません。私、社長のこと好きになっただけなのにわからなくなります……」


 この人を独占することが本当に正しいのかってことに…………


 深夜の月に照らされた綺麗で優しい顔。ストレートの前髪が柔らかい風でさらさらと揺れて、社長は悲しそうな顔をした。


「芽依、好きですよ。僕を信じて」


 社長の気持ちを信じてないわけじゃない。


 あの日、社長は意地悪でサディスティックだったけど、最後には特別甘く優しいキスをくれた。



 寛大に抱きしめてくれた。


 後悔なんてしてない。


 今も会えたことが、こんなにも嬉しいのに、私はわからない。


「やっと、自分から好きになれた子を手に入れられたと思ったのに……」 


「社長…………」


 社長が一歩後ろに下がると、私たちの間に距離ができた。

 まだ行かないで欲しい。離れないで欲しい。
 
 だけど、手も足も動かない。


「帰りますね、また明日。おやすみ、芽依」






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