××倶楽部

 社長は、答えない。



 それが答えだと思った。


 たっぷりと間を置いてから社長が弱々しい声を出した。



「僕は…………普通に結婚して家庭をもって、優しい妻に可愛い子どもたちに囲まれたいんですよ。残念ながら、リオさんはそういうのに向いてない。

 芽依、僕は本気で君を好きになりました」



 わかってます、と社長の胸に顔をうずめた。なんで過去形なんだろう…………私だって、本気で社長を好きになった。


 こんなに呆気なくて短い恋になるなんて……。



「泣かないで……芽依なら僕の夢叶えてくれそうで、本当に一緒にいると楽しいんです」


「社長、今日のキス禁止令って……リオ様に対するケジメじゃないですか?」


 SM倶楽部の社長として、女王様たちを全てサポートしろ、と言ったリオ様に対して、社長はキスを禁止することによってそれを拒否した。

 私に対する配慮じゃない。

 キスをしなくなることで、社長は皆のものじゃなくなる。

 私のものにもなれるし、リオ様のものにもなれる。
 


「そう……かもしれませんね」



 この胸の中にいるのは私じゃダメなんだ……

 社長は何も気づいてない。

 気丈で容赦なくてとても綺麗で私より遥かに社長をよく知っているリオ様。お互いに、その存在を無視はできない。


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