××倶楽部
「ひっ!」
畳を擦るような音がしたから後ろを振り返ると、ズラッと怖そうなおじさんたちが整列していた。
「だから、行かせないって言っただろ?」
耳元で小声でそう言う典に、うん、と大きく頷いた。
そうだよ、昔から典の忠告に間違えなんてなかった。典が行くなって言えば行かないほうがよかったんだ……
ごめん典、こんなことになるなんて…………
「はじめまして、SM倶楽部マーベラスの草原聖夜と申します」
社長はしゃんと背筋を伸ばし、綺麗に正座をしてから深く頭を下げた。
その姿は、私から見ると上品で好感がもてるけど、ヤクザさんたちにどう見えるかはわからない。
「こちらのお宅に、うちのスタッフのスミレさんという女性はいらっしゃっておりませんか?」
物腰穏やかに、でも要件はちゃんと伝える。ミーナ様が何か言い出しそうにしていたけど、それを社長が制した。
「おるよ」
組長さんは、無口なのか必要最低限のことしか話してくれないらしい。
スミレ様がここにいるのは間違いない。
「そうでしたか……よかったです」
社長はこの状況で心底安堵したような声を漏らす。
「お会いすることはできませんか? できれば直接スミレさんと話がしたいのですが……」
組長さんの目が、かっと見開かれた。誰がみていても一目瞭然に、社長のその言葉で鋭い視線を突き刺さしてくる。