××倶楽部


 全然悪びれた様子もなく、至極当然とばかりに、隣を歩く幼なじみ。

 気がつかなかった私が悪いらしい。


 処女、処女、って馬鹿にしてたんじゃない。典なりの、気がつけよアピールだったんだ。


「それで、芽依はさっきあいつに何を言ったんだよ。芽依の気持ちは? って聞かれてただろ」


「典が邪魔で言えなかった。でも、私は社長に振られたの! もう、やっぱり典大嫌いっ! ついてこないで! 隣歩かないで!! ばかばかぁ!」


「んなわけにいくかぁー!」



 突然走りだしても、典は当然追いかけてくれる。

 そう思うと、どんなことだって言えて全力で走って突き放してみたくなる。


 ずっと好きだったと言ってくれる典を、私はまだ試してる。頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 もう終わりにしなくちゃいけないのに、自分の気持ち伝えなきゃいけないのに、恥ずかしい気持ちとか、そういうのも振り払いたいのかもしれない。

 
 広い大通りの歩道はこの時間は人影もなくこんな時間に追いかけっこをしているなんて私たちくらいだ。


「おい! 芽依止まれって! 俺が悪かったからっ! 次は意識あるか確認してから犯すよ」


「そういう問題じゃないのーっ!」


 どれくらい走ったんだろう。人影どころか交通量も少なくなってきた。しかも、たいした距離じゃないのに、日頃の運動不足が祟って、息が切れて足がもつれてきた。


「はぁはあ……」

「いい加減止まれって、帰れなくなるだろ……ここ何処だよ……」


 典は先回りして、余裕で私を見下すように唇を引き上げた。


「……はぁはぁっ………典ぃ」


 私だけ呼吸が乱れてるじゃん……ミーナ様みたいにランニングしたほうがいいかなぁ……


「なんだよ、言いたいことがあるなら逃げないで言え」



 典は、わかってる。




「……っん……………典が……好きだよ」



 苦しい。吐き出した息が邪魔でちゃんと伝わったかなぁ……

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