[完]初恋の人は死んでいた?!【短編】
「やり過ぎましたね」
やっぱりにこやかな彼には、私は油断出来ない。
いつ、心を全て持っていかれるか、分からない。
「おや、今日は夕ごはんが少し早いらしい。
僕は帰るよ」
彼は、いつも夕食時には帰ってしまう。
どこに帰るのか、は分からない。
でも何と無く、聞いてはイケナイ気がするのだ。
「あ、はい。
では、また来週…」
本当は寂しい。
でも、そんな事、言ってはいけない。
彼は、幽霊だから。
彼が居なくなると、私はゆっくり居間に向かった。
珍しく、今日は父もいるらしい。
昔ながらの木製の四角い形の、低いテーブルに、沢山のおかずが並んでいる。
私は、自分の座布団に腰を下ろした。
「お前、週末はいつも寝ているのか」
父は根っからの頑固親父で、どうにも話が合わない。
だから、つい言葉がキツクなる。
「疲れて寝てるの。悪い?」
「悪いに決まってるだろう?!
25の娘がいつまでも家で、グータラしているなど、恥だ!」
父は、顔を真っ赤にして私を睨む。
いちいち怒鳴るその癖が、私は嫌いだ。
「うるさいわよ、夜に。
近所の迷惑考えたら?」
ふんっと父から顔を背け、急いで食事を終わらせる。