く ち び る
それでも不満な女の子は、私のことを思いっきり睨み付けるが、ヤツの意思がひっくり返らないことを察し、渋々引き上げていく。
もちろん、去り際に私への攻撃も忘れない。
「こわーい」
「あの目、みたー?」
ひそひそ聞こえよがしに、そう振りまきながら離れていく乙女たち。
ヤツはのんきにバイバーイと手を振る。
お誘いへの断りが面倒事に発展しないよう、私をダシにしているんだと思う。
「用事があるとでも適当に言えばいいのに」
「ん?」
きょとんと私を見たあとに、思い至ったようで「ああ」と納得の声を出した。
「だって嘘はいかんでしょ、嘘は」
「私と帰るって嘘をついてるじゃない」
「それは嘘じゃなくてオレの願望だし。
用事を毎度ひねり出したら、同じ用事を言っちゃうかもしれないし、辻褄あわなくなるだろうし……そしたら嘘に嘘を重ねなきゃならなくなる。
バレたとき怖いし。
そんなリスキーなこと、オレには出来ないよ」