く ち び る


「天使さんが、わたしに何のよう?」

「天使がすることっつったら、ひとつだろ?」


 手袋をした指先で、そっと顎を掬われる。視線が合わさる。

 太陽が落ちるのと比例して、恵生の顔の影が濃くなっていく。

 翡翠の奥が、怪しく光った。


「お前の魂を、回収しに来た」


 まるで腹を空かせたハイエナのような目だ。唇から赤い舌が覗き、乾いた唇を濡らしていく。

 わたし自身のこの訳のわからない状況に、笑いが込み上げる。


「これ、現実なのかな、恵生」

「夢なら良かったか?」

「どうだろ、」


 さっきまでの優しさは、私を殺すための演技ってわけ。これが天使の手口なら、天使だなんてよく呼べたものだ。

 絶望しているはずなのに、どこか楽しんでいるわたしがいる。

 夢だから、だろうか。


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