く ち び る
「それって、オレの唇を独占したいってことじゃない?」
嗚呼、そうか。
私は、誰にでも触れる唇が、私に触れるのが嫌だった。
誰かたったひとりのものであって欲しかった。
そしてその『誰か』が、私であって欲しかったのだ。
「西島くん」
「なに?」
「もう、私以外の子に、あんな挨拶しない?」
あまり期待せずに問い掛けた私に、彼は当然とばかりに微笑んだ。
「もちろん。ちづが望むなら」
「望むっていうか、私は寛大じゃないからね」
「ん?」
「自分の彼氏が、他の女の子にあんな挨拶してたら……桜の下に埋める」
「え、埋……ってかなんで桜の下!?」
そしてピタッと動きが止まった彼は、顔だけを恐る恐る私に向ける。
「え、自分の、彼氏……?」
嗚呼。つつがないスクールライフ送れないこと大決定。
私の中に後悔や懸念が湧き上がる前に、
満開の笑顔をした彼の唇は、
頬ではなく、
初めて、唇に触れたのだった。
fin.