く ち び る
「――ほんと、綺麗」
ゆるやかに弧を描くその魅惑的な唇は、わたしにとって毒だ。
この毒はとても甘く、危険なもの。
「綺麗だから、いつも食べちゃいたくなる」
わたしが人と目を合わせることが苦手だとわかっていて、覗き込んでくる。
彼の瞳に捕まればもう逃げられない。
悔しくて睨むとクスリと笑われた。
「強がり屋さんめ」
そう言って、彼はむき出しになったわたしの背中へと口づけを落とした。
おごそかで神聖な、誓いの印でも刻むかのように。
――けれども、わたしと彼の関係はそんなお綺麗なものじゃない。
ペロリと背中を舐められ、肩が震える。
気まぐれな瞳を愛しげに細めるその笑顔が、少し、憎い。