く ち び る


わたしの親友、園原りり子を陳腐な言葉で表すと、とても魅力的。


肩に少しかかるふわふわウェーブの髪にくりくりとした大きな垂れ目に、小柄で華奢な少女。

おっとりしているのに気づかい上手なりり子は、七草皇の可愛い彼女。


背が高くてツンとした黒髪にキツイ猫目。


愛想が悪く、黙っていると「なに怒ってんの?」なんて聞かれる始末のわたし、宮沢のばらとは大違い。


そう、大違い。
どうあがいたって変わらない。変えられない。根底が違うのだから割り切っている。

割り切っては、いる。




「のばら見てっ。これね、皇くんに買ってもらったの。わ、私に似合いそうだよねって!」

「ふうん……ずいぶん、大人っぽい色ね」

「……うん! 色っぽい、セクシーな赤だよね」


なのに、この潰れたトマトのようなぐじゅぐじゅとした気持ちをうまく無視できないでいる。



りり子が朝から何やらうずうずしているのには気付いてた。


だから、得意げにボールを取ってきた犬みたいに来た時、平静を装うのにすごく苦労した。



その後、授業が始まるまでずっと彼にどんな言葉をもらったか。


どんな風に抱きしめキスされ、どんな風に甘い時間を過ごしたのか。


りり子はしゃべり続けた。


いつも以上に下手な相づちしかできなくて、りり子が「のばら調子わるいの? 大丈夫?」なんて言って首をかしげる。


上目遣いというオプション付きでの、女の子らしい気づかい。

うらやましかった。


「大丈夫。気にしないで、りり子」

大事に手に持つ真っ赤なリップグロスから、目が、離せなかった。







――その日の放課後、教室に一人残るわたしはどうにもならない罪悪感に胸が押し潰されそうだった。


「……やってしまった」


この言葉を、いったい何回言ったのだろう。

視線を落としたその先、わたしの手には真っ赤なリップグロス。


昼休み。りり子が少し席を外した時に、盗んでしまった――衝動的に。


「どうしよう。どうやって返せば……」


リップグロスを見つめては自己嫌悪と同時に優越感を抱いてしまう。


そんな自分がみじめに思えて、解決策を探していた。





「何を返すの?」


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