く ち び る
――――…
「ほんとに崩れないね。すごいや」
子供のような笑顔をふりまく彼の衣服は一切の乱れがない。
それに対してわたしはシャツだけ脱がされた格好。
散々キスして、器用にわたしからシャツを奪うや否や、わたしの背中の左側。
そこになんどもリップノイズを響かせ時折舐められ、肩甲骨のあたりをやんわり噛まれ……そうして、甘くもほろ苦い時間が終わった。
「これは君にあげる」
「……いらない」
「あはは、大丈夫。りり子にはなにか新しいやつ買ってあげるし」
そういう意味で言ったんじゃない……!
声を大にして言ってやりたかったけれど、手にそっと握り込ませるように持たされた。
すぐさま返したかったのに力強い手に阻止されて、耳元へ囁かれた。
「これは、君のもの」
……だったら、あなたは誰のもの?
「可愛く嫉妬する君が見れて楽しかったよ」と言葉を残し七草くんは去って行った。
リップグロスをりり子が自慢し、わたしが盗む。
全て彼の計算だった。
彼は一体なにをどうしたいのだろうか?
胸に手をあてる。
リップグロスは本当に崩れなかったけれど、わたしの心は、もう――