く ち び る


× × ×

真っ青な空がいやに清々しい、昼休み。りり子の話は止まらない。


「それでね、皇くんってば可愛いんだよ?」

「どんな風に?」

「あのね、りり子の部屋に入るなりさ……」


あの日、七草くんからリップグロスを渡され数日が経った。



何度か、捨てようとした。

小さな容器の中で、鮮やかな色を惜しげもなく見せるそれを捨てれなかった。



ましてやりり子に返すこともできず、制服のポケットへ入れたまま。


そして時折触れてみては、背に触れられたあの唇の感触が甦る。



……それにひどく安心する自分に嫌悪する日々。




わたしのペースは七草くんに乱されっぱなしで、あの笑顔がこびりついて離れない。


もっと、わたしだけに……なんて考えてみてすぐに自分に向け嘲笑う。


――今だって、


「あ! こ、皇くん!」


と校庭でサッカーしてた彼に気づき小動物みたいに手を小さく振るりり子に、優しい笑顔で返す七草くん。


シャツの襟元からチラリと覗いた、りり子の首筋にある赤い痕に胸がうずく。




心臓が、痛い。

うるさくて、痛い。






「ごめん、りり子。わたし午後適当にサボる。荷物は適当にやるから気にしないで」

「ええぇ……わかった。体、気をつけてね、のばら」

「ありがとう」


そそくさと、逃げるように教室を出た。




――――…


保健室はわたしのお気に入りの場所。


保険医は、いつもフラフラと陽の当たる場所でまったりしている少し、変わった人である。


だから、保健室にいることはそうそうないし、いたらいたで、

「ゆーっくり、まったーり、休んでなさい」


なんて言っちゃうのだから、サボるにはうってつけ。



まっすぐベッドに向かい、カーテンを閉めた。


全てを遮断して、何も考えたくなくて。


でも頭に浮かぶのは、七草くんのことばかり。


意地悪な言葉。

確証のない温もり。

気まぐれな笑顔。

アーモンドの形の瞳。

薄い唇。




ぐるぐる。
ぐるぐる。

じわじわ。
じくじく。

背中がうずく。


お願い。
こんな時にまで、わたしを狂わせないで。


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