く ち び る
× × ×
彼と初めて出会ったのは、保健室だった。
日頃、何かとうまく立ち回ることが出来ないわたしは、一部の女子から邪険にされてる。
別にどうってことないから放置していれば、恒例の体育館裏へお呼び出しイベント発生。
数人の女子たちに囲まれ、口々に言い出しては止まらない悪口や妬みの言葉。
うんざりしてしまって、
「気は晴れた?」
と言えば、彼女たちはブチ切れた。
キャンキャン吠えながら叩かれたり蹴られたり。
男子と違って、女子は力加減がわからない。
だから一撃一撃が重くて、今でも思い出すとよく生きてたな、と苦笑いしちゃう。
幸か不幸か、放課後だったから泥まみれの血だらけで校舎を歩いても、見つかることなく保健室へたどり着いた。
ひなたぼっこが終わったらしく、保健医もいてすぐに手当てをしてもらえた。
「着替えをかわりに取りに行ってあげます。さー感謝しよう! ぼくに!」
「……道草、くわないようにね先生」
「ちぇっ」
保険医が出ていって、時間がたたない内に雨が降りだした。
綺麗な茜色の空に照らされる雨。
キラキラと輝いていて思わず見とれていると、窓から人がひょいっと入って来た。
綺麗な金糸の髪をしめらせ、人懐っこい笑顔を浮かべていた。
「雨ふるとか聞いてないよ、ほんとさあ」
と、そこで彼が止まった。
無理もない。
わたしは今、下はスカートをはいてはいるものの、上は下着の上にシャツを羽織っているだけなのだから。
「どうしたの、それ?」
「聞いておいてシャツをとらないで」
「あは、ごめんね」
「誠意がこもってない」
「わかった?」
なんなのこの人。
段々といらいらしてきて、シャツを奪い返そうと手を伸ばせばかわされた。
後ろに回り込まれ、ひんやりとした手が肩に触れたからビクッと震えた。
「血、垂れてる」
ペロリと舐められた。
生暖かい舌が、わたしの背中――ちょうど心臓の辺りを這っていく。
いきなりのことで、スカートを握るのが精一杯。
……最後にちゅ、というリップノイズが聞こえて安心したのは、間違いだった。
「一目惚れしちゃった」
「は?」
「君の背中に」
「は?」
「これからもたくさんキスしたい」
心臓に。
なんて、とんでもないこと無邪気な笑顔で言うなり、今度は唇を塞がれた。