く ち び る
高校生のくせに、なんて獰猛なキスをするのだろう。
何度も何度も角度を変え、テロリと歯列をなぞられるだけでも体がしびれるには充分だった。
舌を吸われ、絡められ……海外ドラマのようなキスをしている自分がひどくいやらしい。
離れたかったのに、許さないというように後頭部を掴まれれば逃げられない。
お仕置きとでも言うように、彼から送りこまれる唾液をジュースのようにゴクゴク飲むはめになった。
それでやっと満足してくれたらしい。
「はは、ごめん。つい」
「げほっ……誠意は?」
「猫の肉きゅうぐらい」
「馬鹿なのね」
「うん。馬鹿だから、綺麗な唇に欲情してキスしちゃう」
なんて歯の浮く台詞なのだろうか。
と考えつつも、なぜか、彼を受け入れてしまう自分に疑問を持たないのは、なぜ?
顎を持たれ、彼の瞳とぶつかる。
陰がかかって、目をつむれないでいるわたしに、クスリと漏れる笑い声。
唇が触れあう――その時、ガラリとドアは開かれた。
「……あのーう、異性不純交遊は外でお願いしますねー」
それはそれはもう、遠慮がちに困ったなといった面持ちで、笑みがこぼれた。
彼も同じなようで、
「あっはは! じゃあ先生のオススメはアオカンってこと? マニアックだねぇ!」
「どうせなら夜の公園にでもどーぞ、性に忠実で貪欲な若者諸君よ」
「……」
全然ちがった。
一通り先生と話を咲かせたあと、にっこりと笑い、
「また明日ね、のばらちゃん」
名前、どうして?
言葉になる前に彼は出ていった。
その翌日だ。
りり子と七草くんが付き合うことになったと聞いたのは。
――――…
「……ん、」
そう遠くもない、懐かしい夢だった。
時間を確認しようとカーテンに手を伸ばしたところで、止まった。
「んっ……あ、皇くん…っ」
「なあに」
「ひゃっ……あ、キスマークつけたい…っ」
「好きにすれば」
隣から聞こえる声は、七草くんとりり子のもの。
ベッドが軋み、肉と肉がぶつかりあういやらしい音、甘い声、かみしめる吐息……。
「……っ」
出ることも叫ぶこともできず、耳をふさいで時間が過ぎるのを待った。
こぼれる涙をどうにもできず、ただ、ひたすら。