く ち び る


最初は入り口を軽く撫でるだけだった。

けれど秘部から、昨日、いやというほど聞いた濡れた水音が響き出すと、指を中に入れられた。


この違和感と圧迫感が未だ慣れない。



むしろ気持ち悪くて、逃げ出したくてもがいた。

その度、太ももにきつく爪を立てられ、罪人を咎めるかのように静かに見つめられる。


これを続けているうちに、反抗心がシュルシュルとしぼんでいった。


「すごいね」


これを続けていた間も彼は愛撫の手を止めず、気がつけばもう、ぐちゃぐちゃになっていた。


恥ずかしくてまた顔を背けたかったのに、顎を捕まれ彼の顔が近づいた。

反射的に目を閉じれば、ハッ、と鼻で笑う声。


「はしたない子に、キス、したくない」


やっと表情を見せてくれたそれは、笑っているのに笑っていなかった。


目の奧に侮蔑の色がありありと浮かんでいて、いよいよ訳がわからなくなってきた。


困惑を示すわたしに、七草くんは顎から手を離し、また指を秘部へと宛がい侵入する。



指の付け根まで入れられ、好き放題に荒らされ、時折突起を押し潰され、頭がクラクラして、体が痙攣して、絶頂を迎た時、聞こえた。



「……僕から、逃げないで」


微かに空気を震わせた声は、母親にすがる子供のような響きがあった。


「……七草くん」


どうして、なんていう疑問よりも、愛しさが胸に溢れてくる。


わたしは片手で彼の頭を撫で、もう片方は彼の空いていた手を握った。




離れないで、離さないで。



見て、わたしを。



わたしだけを。



――「たまには素直にならなきゃ」


不意にりり子の言葉を思い出して、握る手に力を込めた。


「……わたし、が、にげたのは」


まぶたを閉じた。

でなきゃ泣いちゃいそうだった。


「好き、だから」



声も体も震えて、すごく情けない。

けど、こんな弱いわたしも彼に見て欲しくて……受け入れて欲しくて。




「七草くんが好き」





そっと目を開け、飛び込んで来たのは、


「……泣いてるの?」


どうして?






「ほんと、意地っ張りだよね」


ほろほろと綺麗な涙を流しながら彼は微笑んだ。


初めて見た、彼のすごく綺麗な微笑みに呆然としていると、ちゅ、と唇から鳴るリップノイズ。






「お互いに」



わたしの意識はそこで途切れてしまった。




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