く ち び る
×××
この翌日、七草くんとりり子が別れたという噂が駆け巡った。
わたしは驚かなかった。
なぜなら昨日、りり子から直接聞いたから。
七草くんに好きだと告げたあと、ベタなヒロインよろしくぶっ倒れ目が覚めれば見慣れた保健室。
で、起きるとなぜかりり子がいてしかも泣いた後だったようで目が赤く、片方の頬も赤かった。
戸惑うわたしに、りり子は安心させるように微笑んでくれた。
あと、なぜか保険医から熱い番茶をもらった。
少しの間をおいて、りり子が切り出した。
「さっき、皇くんと別れたの」
わたしが何か答える前に、言葉を重ねた。
「皇くんとりり子はね、ちゃんとした恋人じゃなかった……恋人ごっこを、してたんだ。理由は好きな人に、振り向いて欲しかったから」
「……」
「けどやっぱりお互い虚しくなって、色々やりすぎて……潮時だなあっ、て」
赤くなった頬をさすった。
「そしたらね、ある人に怒られちゃった。人の気持ちを踏みにじるのはよくないって……当たり前のことを、当たり前のように」
少し視線を泳がせたあと、りり子は大きな目でわたしを写した。
「ね、のばら」
「……なに、りり子」
「やっと、自分の気持ちに素直になれたんでしょ? ……頑張ったね」
頑張った。
何をどう頑張ったかなんて自分でよくわかってない。
でも誰かにそう言ってもらえたことが嬉しくて、りり子だからこそ、その言葉がすごく優しくて、ジワリと視界が滲んだ。
「う、ん……」
ぼろぼろと涙が次から次へと溢れてきて、りり子は頭を撫でてくれた。
二人で泣きながらありがとう、や、ごめんね、と何度も何度も言った。
お互い落ち着いた後、保険医が「夜道は危ないぜよー」と下手な茶化しを入れながら、こぢんまりとした車で送ってもらった。
その車の中でわかったことは二つ。
一つは、保険医の名前。
もう一つは、りり子の好きな人。
「あ! またこんなとこでーっ!」
休憩時間、のほほんと日向ぼっこしてる保険医を叱るりり子。
そんな様子を微笑ましく見ていたら、七草くんがやって来てそっと耳打ち。
「放課後、保健室で待ってる」