く ち び る
その気持ちをわかっていながら私は、こう言うのだ。
「ねぇ、もう一回…」
「あなたはそれが口癖ですね」
小さく息をついて、彼が再び私の名を呼ぶ。
イチさん、と悩ましい表情で。
とろけるような声音で。
「わかってますか…?」
「うん、わかってる」
あなたがどれだけの感情を押し殺して私といるのか。
こうして抱き締めあうことにどれだけの葛藤が必要なのか。
「わかっているのに、あなたは許してくれないんですね」