く ち び る
呆然としているうちに、サキくんの顔が目の前に迫ってくる。
瞬きをする間もなく――。
「んぅ…っ!」
熱と熱が繋がる、艶めかしい音がした。
サキくんの胸を手で押して拒むと、しばらくしてようやく私たちの唇が離れた。
「何、して…」
「何してるか、って?」
挑発的な目線が私を捕える。
妖しい光を放つそこから、目が離せない。
「飼い犬にはご褒美が必要ですよ、イチさん」
変化が怖、くて。
やっぱり何も変わらないままがよかったと思ってしまう。
どうして何かを変えようなんて思ってしまったんだろう。