く ち び る


「ご褒美をくれませんか」


潤む瞳でこっちを見つめてくる彼に、私はおずおずと口を開く。


「陽人くん…」

初めて口にした彼の名前は何だかまったく知らない、他人の名前のようだった。


彼が少しだけ目を見開いて、それからやわらかく微笑む。

そして私の真似事をするようにいたずらっぽくこう語るのだ。


その、美しく魅惑的な光を放つ唇で。



「ねぇ、もう一回。

…美弥さん」




 fin.

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