く ち び る


 着替えが終わって、さっと化粧。


 というものの、これもまた、服装と同じで。



「こ、濃いかな……」



 ラインを引いた時点でびくびく。というのも仕方ない、私が化粧品を扱うなんてそうそうないわけで。


 人生で何回目か、片手の指で数えられるほど。


 雑誌のモデルはもっと濃いから。そんなのは気休めにすらならない。


 そもそも顔立ちが違う。化粧映えする顔としない顔がある。


 慣れていない私は、自分がどちらなのか判別もできない。


 という風に、色んな事を控えめ、控えめにした結果。



 …………いつもと、一緒……?


 部屋の壁に立てかけてある鏡が、仏様のように笑う。


 気にするな、と。



「そ、そうだよね…」



 鏡に問いかける。うむ、と返事があった。


 どの道もう時間がない。


 出発は九時。あと五分くらいの時間じゃぁ、何も出来ない。


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