く ち び る
そうしていると、約束の時間になった。
同じマンションの、二つ下の階に住んでいる彼が、迎えに来ることになっている時間。
一分の遅れもなく、チャイムが鳴った。
お母さんが出るより早く、荷物を持って玄関へかける。
「おはようっ!」
ドアを開けた。
いつもと変わりない、幼馴染の顔。
「はよ」
―――いつも隣で見ているのに、こうして…今までと違った見方をすると、改めて思う。
この人が、この人が…私の。
私の、“彼氏”。
「行こうか」
いつもより、心なしか甘い笑顔。
胸の奥がきゅっとなって、幸せが込み上げる。
そしてそれを、伝えたくて伝えられなくて、喉元で言葉がつっかえる。
「うんっ」
心の底から溢れた笑みを、どうにか整えて彼に向けた。