く ち び る


「どうした?」


「ん?」


「……いや、何でもない」



 自分の思考回路に焦りを感じていると、なぜか心配げな声がかかる。


 体調の悪そうな顔でもしていたのだろうか、と自分でも少し不安になる。



「立ったまま寝てるのかと思ったじゃん」


「え」



 からかってるとかじゃなくて。


 真剣だったらしく、それが余計に悲しくなる。

「大丈夫だよ……」

場内に入って、座席を探す。

段差はあるけれど、さっきのようなへまはしない。

どうにか座席を見つけ、座る。

人気の映画とは聞いていたけれど、まさかこんなになんて。

「殆ど埋まってるね…」

「だなー」

空いている座席は殆ど見当たらない。

これでむしろ、見つけやすかったようにも思う。


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