く ち び る


――「…ずっと好きだったの」


――「でも、俺今は―――」


――「分かってる。それでもいいの……!」



 ……気まずかった。


 突然訪れた、キスシーン。



 ――――――ないないない。


 そう言い聞かせても、考えてしまう。


 顔から火が出る勢いで、恥ずかしさやら謎の照れやら。


 しかも展開がまた。……これは、浮気、になるの では。


 どうにも耐え難いのだけど、耐えた。


 幼馴染に気持ちを伝えられないまま転校してしまった少女が、大人になって、もう彼女の出来ている幼馴染と再会して、結ばれる話。



 ……幼馴染。



「面白かったなー」



 映画が終わってそうそう、座席に着いたまま蓮人はぐっと身体を伸ばす。


 どうにもリアクション出来ず、私は困ってしまった。


 変な心配なんだろうけど、似たようなことになったり、しないよね…なんて。



「どした?茜」



 平然と笑って問う彼に、私はどんな視線を向けているのだろう。


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