く ち び る
じゃあさ、と私は話題を変えた。
「私には普通の挨拶をしてくれない?」
ヤツはまたしても、きょとんとした顔を私に向けた。
「普通に挨拶してるけど」
どこが普通だ、どこが。
「……言葉だけでいいんだけど」
「あー、あれ。女の子のほっぺたって柔らかくて気持ちいいんだもん」
悪びれずにしれっと言ってきたヤツに、私はこめかみを押さえたくなった。
脳みそが異次元にあるのだとしか思えない。
「あれでコンディションとか機嫌もわかるし。
女の子の繊細な頬には、唇が一番いいんだよね。
触れるときは細心の注意気を付けてるつもりだけど、何、痛かった?」
脳みそは異次元に置き去りにしてきたようだ。
「……私には挨拶いらないから」
「え、なんで。
挨拶は基本でしょう」
こっちが『なんで』と聞き返したい。
どこをどう弄くったら、『基本の挨拶』がああなるのよ。