く ち び る
「どうして、好きになる前に彼女持ちって気付けなかったかな‥」
夕日が傾き、だんだん部室が暗くなる
思い出に浸っていたらいつの間にか外も暗くなりつつあった
思い出といっても数ヶ月前の話だけど‥
そろそろ先輩起こさなきゃな。
「せんぱーい!
私もう帰りますよー!」
肩を叩いて声をかける
「っん‥」
先輩は正直寝起きが悪い。
たまに起こすのに15分くらい格闘するときだってある。
「ほら、暗くなっちゃいますよー?」
「ぅうー‥スズ、もう少し‥」
先輩を揺すっていた手に力が入ってしまう。
だらしなく開いた唇から紡がれた恋人の名前、
愛おしいそうに目尻を下げる
いつも、起こしてもらってるんだ‥
ねぇ、先輩‥それって
「痛ッ、宮間?」
「うわっ!せせせ先輩、ごめんなさい!それより帰りますよ!」
力がこもっていた手をパッと離す
私、今何考えてたんだろ?!
先輩の口からスズって名前を聞くたびに、私の心は黒い靄みたいなもので包まれていく気がした