く ち び る


下校時刻ともなると、隣の席は賑わいを増す。


遊びやらなんやらで、引く手あまただ。


「ワタル! カラオケ行こ!」
「ワタル、ゲーセン行こう」


追いやられるようにして、私は席を抜け出す。


廊下に出たところで、後ろからポンポンと軽く肩を叩かれた。


「ちーづ」

「……なに」

「一緒に帰ろ?」


とりまきをゾロゾロ連れたまま、私に向かってヤツがそう言う。


「ってことで、オレちづと帰るから。
ごめんね、また誘って」


毎度「また誘って」と言うわりに、誘いに乗ったのを見たことがない。


ここで大抵、男子はあっさりと引き上げていくが、女子は名残惜しそうにワタルの腕にぶら下がる。


そういう女子には、ちゅ、と。

お別れの挨拶とばかりに、ヤツは女の子たちの頬へ唇を寄せる。


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