く ち び る
着物の帯をほどく手が不意に止まった。
どうしたのかと、つややかな黒髪の下の端正な顔をのぞき込めば、なにか思案に
ふけっているらしい表情があった。
「ねえ、天女(アマメ)さん」
「なんですか、紅葉(モミジ)」
「ぼくが、あなたをあいしているとしたら、どうしますか」
ふっと。ふいに、口からもれたのは、嘲笑とも驚きともとれる吐息。
「なにをばかなことをおっしゃるの」
「本気だよ」
「紅葉」
「天女さんの帯をほどくたび、からだに電流が走ったように指先が痺れて、そし
て考えるんだ。この白い肌をなぞって、そうしたら、あなたはどんな声 をもら
すのだろうって」
言葉と同時に、冷たく細い指先が肌をなぞって、思わず震えた。
「ぼくは一介の着付師で、あなたは一流の芸妓だ」
ひとりでたんたんと言葉をつむぎながら、帯をほどく手。彼の指先が触れた部分
が、あつくうずく。
「おさななじみで、昔の級友で。ぼくらは、いつも、一緒だったね」
帯をほどき終わった手が、ひたりと腰にまとわりついて、思わず口から声がもれた。
「大人になってからも一緒だなんて、考えもしなかった」
近づく彼の吐息が、私の肌をはう。
「いつからだったんだろって」
「ぼくが、君を好きだったのはって。ずっと、考えたんだけどね」
「どうしても一つの結論にしかたどりつかなかったんだ」
「ねえ、きいて、天女さん」
「君は、うまれたときから、おれのものだったんだって」