く ち び る


―――!

瞬間、反転した世界の真ん中に、彼のほほえみはこの上なくあでやかで。


「このときを、どれだけ待ち望んだことか」

がんらい美しいその顔に、恍惚を浮かべて。

「ねえ、あられもないきみを、ぼくが、着付けてあげる」

言い終わるか、言い終わらないかのうちに、肌をなでたのは彼の黒髪。
頭で認識するより先に、からだが、反応していた。

彼のやわらかで、あつい、くちびるの温度。


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