ショートストーリー
「さようなら。」
その一言が、俺が最後に聞いたあいつの声だ。
その時のあいつの目には涙の跡が残っていて、この一言を言うのにあいつがどれだけ苦しんだかが伝わってきた。
超がつくほどの泣き虫で、アニメ映画でさえぼろぼろ泣いていたあいつ。
だけど、俺に別れを言う時は一筋も涙を流さなかった。
ただ、跡だけを残して。
自分の足で必死に立とうとするあいつの姿に、なぜだか俺は「負けた」と思ったんだ。
俺が知らない間にあいつは強くなっていた。
泣き虫だったあいつより、泣くこともできないで思い出をかき集めている俺の方がよっぽど惨めだな、と思った。
居なくなってから大切さに気づく、なんて言葉が何かの歌詞にもあったような気がするけれど、今の俺はまさにそんな感じ。
俺にはあいつが居なきゃダメだったんだな。