ショートストーリー
だけど…
何か言わなきゃ。
「はじめまして。
沙織の妹の彩音です。」
声が震えた。
だけど私以上に、颯斗の顔からは驚きと焦りが伝わってきた。
「あ…あの…。
桐山颯斗です。」
「何なの。
二人共緊張しちゃって。」
何も気づいていない姉はにこにこしている。
「そ…そりゃ、お姉ちゃんの未来の旦那さまに会ったんだから緊張するよ。」
“お姉ちゃんの”未来の旦那さま。
私がなんとか絞り出した言葉の中には、無意識にトゲが入っていた。
彼だけにしかわからないトゲが。
「颯斗さんって無口でシャイだけど、実は優しくて面白い方なのよ。」
そんなこと、あたしはずっと前から知ってる。
だけど心で思うことを口にすることはできない。