ショートストーリー
「あ、あのさ。
私、用事を思い出したから帰るね。」
「ご飯まだなのに帰っちゃうの?」
何も知らない姉は無邪気にそう答える。
…お姉ちゃん。
私はここに居るべき人間じゃないんだ。
「ごめんね。」
できるだけ明るくそう言って、私は帰る支度をはじめた。
玄関で靴を履いていると、後ろから足音が聞こえた。
振り向くと、そこには予想もしなかった人。
颯斗が居た。
「沙織がさ、夜道は危ないから男の子が送ってあげろって。」
彼が目を合わさずに小さな声で言う。
姉の無邪気さを憎みたくなった。
「一人で平気です。」
「でも、本当に危ないから。」
彼はそう言って無理矢理付いてきた。
この人は何を考えてるんだろう?