スキ*キライ【1】




だけど
ズーン、と落ち込んでいる先輩は
何もしゃべらない。

「先輩…?」

そんなにあたしの手料理食べられなくてショックなの?

俯く先輩の顔を覗き込んだ。

「日向…」

「あっ、はい」

なんだなんだ。
突然顔を上げて。

「ちょっとだけ…触れてもいーい?」

こそっと耳打ちしてきた。

「なっ…」

驚いて小さく声を上げる。

何言い出すのバカ…!

全然あたしの手料理が食べられなくて
とかじゃなかった!!

何考えてんのかわかんない!

赤くなる顔を必死で誤魔化そうと
そっぽを向いた。

「ダメ?」

「だだダメですよっ、もちろん!」

あたし達は兄ちゃんに聞こえない様に
小さな声で話す。

「あーー…日向の飯、食ってみたかったなぁ」

もー!今?今言うんですか、それ!

「何言ってるんです…。食べたじゃないですか、クッキー」

「そうなんだけどさぁ…」

その言葉にはなんか不満があるようで。

あたしは先輩の方を向き直して首を傾げた。

「日向の飯も食いたかったー」

……、。

「なぁんて所詮わがまま。ごめんなー、オレってこんなやつで」

眉を下げて笑う先輩は続けてそう言った。

「クッキー作ってくれただけでも奇跡に近いくらいなのにな。贅沢言い過ぎた!ごめん」

「いえ…、奇跡とかそんな大袈裟な…」

「オレにはそれくらいあり得ないことだったの」

あたしが今まで散々嫌っていたから
こんなこと思ってしまうのか…。

「だから…日向がオレのことキライじゃないって言ってくれたの、本当なんだって実感できたよ。ありがとう、嬉しかった」

「先輩…」

「スキだなぁ、オレ…」

「あ、オレ?」

「…日向のことだよ」

あぁ…。

先輩のスキがまたあたしの心に入り込んで暖かくする。




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