最初から、僕の手中に君はいる

16 これで、僕の物

 本当に、覚悟を決めないといけないかもしれない……。

 私は、何度も唇を撫でる畑山の指の動きで、若干身体が疼きはじめてくるのを制しながら、とりあえずテレビの画面を見ていた。

 食事が終わり、後片付けも鍋をシンクに移した程度でそこそこに、畑山が取り出したのは一枚のDVDであった。

「これ見たら帰るのに丁度いい時間になるね」

って、午後10時が何故丁度良い時間なのかどうかは分からなかったが、私は言われるがままに、ソファに腰かけた。

 ソファは3人掛けなので、広くゆったりとしている。

間接照明と、テレビの灯り、あとはテレビから聞こえる英語の声だけで、急に辺りが色っぽくなった。

 畑山はというと缶ビール2本目にさしかかっており、どこまで正気なのか、よみきれない。

「彩……」

 10分ほど静かにテレビを見ていたなと思ったら、急に話しかけられる。

「ちょっとおいで……」

 ゆっくり、抱きすくめられた。緊張で、身体が強張る。

「面白い?」

 言葉の意味を考えるより先に、耳元で囁かれた息が吹きかかったことにより、声にならない声が出た。

 慌てて、口を押えて、畑山から逃れる。

「……どうしたの?」

 言いながら、畑山はしっかりと肩を掴んで引き寄せる。

「…………」

 何も答えられない、私。

「どうしたの?」

 身体を両腕で捉えて、更に耳に唇をつけてくる。

「映画、面白い?」

 振り払うことができず、声を殺すのが精一杯。

「答えて」

 逃れようと身体を肘掛の方に倒す。すると、のけぞった首を上から下にツーっと舐められて、一度身体がビクッとなったと同時に力が抜けた。

 畑山はここぞとばかりに、傾いた身体を完全にソファに押し倒し、俯いた私の背後から責めてくる。

「彩……」

 言いながら、耳をしゃぶる。

 私は声を殺そうと、口元を左手で押さえた。

「声聞かせて」

 耳の中に息と一緒に声が吹き込まれ、更に、畑山はソファと私の背中の間に自らの身体をねじ込み、同じように横になり、私の左手首をつかんだ。

「彩……可愛いね」

「いや……」

 畑山の吐息をよけようと、顔がどんどんソファに埋まっていく。

「いや?」

 息が全て耳の中に入り、手にも足にも全く力が入らなくなる。

「嫌だなんて言ってるのは、この唇?」

畑山は左手の親指の腹で、何度も唇を撫でる。
 
今日ばかりは……途中で逃れられないかもしれない。

「彩……」

 ゆっくりと唇を撫でる畑山の手が移動し、腰の辺りで止まる。

「いい?」

 何を聞いているのか分かってはいたが、さすがに答えられなかった。

「少し……気持ちよくしてあげる。どうしても嫌なら、『やめて』って言ってね」

 『やめて』……どうしよう。

 迷う暇もなく、その大きな手が、胸の辺りで円を描き始める。

 どうしよう、動きが本格的になってきたのが分かったと同時に吐息が上がる。

「『嫌』は無効ね」

 また、耳元で囁かれ、身体がビクンと揺れ、完全に快楽を受け入れられるように、身構えてしまう自分がいる。

「彩……すぐ嫌って言うに決まってるから」

「やだ」と心の中で、甘くねだる。畑山の左手は、服の上から突起をあえて避けて、柔らかな部分を揉み、右手も同様に、ソファと身体の隙間から器用に滑り込ませ、胸の感触を味わうように、力を込める。

 しかし、突起が下着に擦れるように、少し上下させて。

 擦れる度に身体が震え、息が荒くなる。

 私は、漏れそうになる声を、左手で必死に抑えた。

「嫌じゃなさそうだね……」

 固くした舌で耳の後ろを何度も往復されて、また声を殺す。

「焦らされるの、好き?」

 畑山の左手人指し指が太腿の上をゆっくり、なぞる。

 ぴったり閉めた、両腿が、熱くなってくる。

「彩……」

 また耳に息を吹き込まれ、身体がのけ反った。

「僕が聞いてるんだよ。答えて」

 人指し指が膝、そしてその上、とだんだん上にあがってくる。

 脳が、次々先を予測し、息をするのが精一杯になって来る。

「彩……? 話、聞いてる?」

 声は聞こえているが、それよりも、耳を何度も何度も刺激されて、力が抜けているのにも関わらず、太腿への新しい快感が待ち遠しくて仕方なく、質問に答える余裕はない。

「好き?」

 指が太腿の間を割るように、真ん中を上下し始める。もちろん、股には触れずに。

「好きだよね?」

 不意に、右手の指で胸の突起をギュっと握られて、甘い声が出た。

 と、同時に、畑山は私の太腿を左右ずらし、スカートから太腿が大胆に出てしまう。もう股に触れるのは、簡単だ。

「彩……」

「いや……」

 人指し指が、太腿の内側で上下し、その快感がまちきれなくなる。

「嫌なの?」

 右手で突起をこねられ、下半身が妙に疼き、それを隠せないくらい捩ってしまう。

「彩」

「……ダメっ!」 

 首筋に唇が這い、髭のちくちくした感触で、刺激が更に強くなる。

「強情だね」

 畑山は、その息も全て耳に吹き入れながら、更に人指し指で股のすぐ下、ぎりぎりを少し強めに押しながらなぞった。

「いじめちゃお」

 と、首元を吸われたと同時に、身体が大きくガクンと揺れた。

 軽い快感が全身に走る。

「……今軽くいったでしょ」

 カッと全身が熱くなった。そんなつもりじゃなかったのに、身体が勝手にそうなってしまいったのに。しかも、畑山は嬉しそうに笑っている。

「彩……蒸れてる匂いがする」

 私は咄嗟に足を閉じようとしたが、

「もっと焦らして、本気でいかせてあげようか」

 そう吹き込まれ、更に、右指に力を込められた。

「少しだけ、触るね」

 下着、ストッキング、ガードルの順で、何重にもなった股に、人指し指がゆつくりと近づいてくる。

「聞いていい?」

 言いながら、指は、また中心部を残し、円を描き始める。

「いきたい?」

「…………」

 なんとも答えられない。

「じゃあ、いくの好き?」

 酷い質問だ。だがそう思いながらも、同時に、息がどんどん上がってくる。

「何か答えてほしいな」

 円がだんだん小さくなっていく。

 全身はもうその小さな円に夢中になる。

「真ん中、してほしい?」

 円の中心のことを聞いている。分かっていたが、答えられなかった。

「してほしいよね」

 答えないことが分かっていたのか、すんなり、しかし、ようやく、指をあてがってくれる。

「大事なことを聞いておきたいんだけどね」
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