最初から、僕の手中に君はいる
5 期待に満ちた車内
「僕、もう5分くらいで着きます」
という声が隣で聞こえたと思ったと同時に、意識が蘇ってくる。
ゆっくり目を開けた。身体が少し揺れている。そうか、タクシーに乗ったまま寝たんだった。永井が後5分ということは、乗ってまだ10分くらいしか経ってないに違いないが、どのようにして車に乗り込んだかは、全く思い出せなかった。
「藤沢さん、大丈夫ですかね?」
の永井の問いに
「起きてるよ」
と、さらりと答えた。
「あれ、起きてたんですか」
「うん、さっき」
私は首をぐるりと回した。
「気持ち悪くないですか?」
「うん……平気です。ちょっと眠いくらい」
「けど、歩けないんじゃないですか?」
「うーん、どうだろ。今はそんな感じしないけど、けど私、タクシーに乗ったの覚えてないんですよね……」
「えっ」
永井は驚いて笑った。
「タクシーには普通に乗ってましたよ(笑)。大丈夫って言って。乗ってすぐ寝ましたけど」
「そうだったんだ。全然覚えてないです」
私も陽気に笑った。
そこでタクシーは永井の指示により一時停車し、「お疲れ様でした」の当然の一言を残して彼は帰ってしまう。
「はあ」
となんとなく一息ついて、ようやく思い出した。
そうだ、畑山には口止めされるかもしれない!
「ところで……」
うわっ、誰もいなくなったと思ったら、やっぱり突然喋り出した!
「……」
聞くだけ、聞こう。
「自宅はどのあたり?」
あまりにもあたりさわりないセリフのため、ずっこけそうになる。
「えっと……もう少しです、後5分くらい。スーパーの隣です」
「なるほど」
「あの、畑山部長の実家ってどのあたりですか?」
「もうちょっと奥かな」
「……」
「……」
何か言い出すに違いない。池内のこと、誰にも言わないでとか、もう一度釘を刺して来るにちがいない。
「……」
だが畑山は黙ったままだ、それに痺れをきらした私は、少し自分から言ってみることにする。
「あ、あのー……。あの、あの、さっきのことなんですけど……」
「さっき? 何?」
畑山は暗がりの中、じっとこちらを見つめた。
「えっと、あの、さっきの食事会の途中のことなんですけど」
「うん、何かな?」
えー!? こっちから言わなきゃダメなの!? 絶対気付いてるでしょ、この人!!
「あの、だから、その。池内さんの、ことなんですけど!」
「うん、池内さんが、何?」
本気かこの人!? と、私は相手の顔をまじまじと見た。
「え……畑山部長って、池内さんが好きなんじゃないんですか?」
じっと見つめて聞いた。相手の顔は暗くてよく分からなかったが、おそらく無表情に近いとは思う。
「さあ……どうかな」
えええー!? ここで、どうかな? とか、あり!?!?
「ち、違うんですか?」
い、一応念のために聞いておこう。それほど失礼には当たらないはずだ。
「うん、正確に言えばちょっと違う」
あ、まあ、そうかあ……。人妻を好きって、堂々とは言えないかな……。
「では……ナイショ、という方向で……」
「さっきは思いっきり方向ズラしてたじゃない」
畑山は笑ったが、私は気にしていたことをつつかれて、肩をすぼめた。
「あれ、気にしてた?」
笑わない私に気付いた畑山は、身体をこちらに向けた。
「……少し……」
「大丈夫、もしそんな噂が出回っても、誰も信じないから」
まあ、相手が人妻で、正統派っぽい部長が好きだと言っても、本気にはとられないかもしれないけど……。
その前に、そんな噂が出回ったら、って、私、やっぱりあんまり信用されてない?
という声が隣で聞こえたと思ったと同時に、意識が蘇ってくる。
ゆっくり目を開けた。身体が少し揺れている。そうか、タクシーに乗ったまま寝たんだった。永井が後5分ということは、乗ってまだ10分くらいしか経ってないに違いないが、どのようにして車に乗り込んだかは、全く思い出せなかった。
「藤沢さん、大丈夫ですかね?」
の永井の問いに
「起きてるよ」
と、さらりと答えた。
「あれ、起きてたんですか」
「うん、さっき」
私は首をぐるりと回した。
「気持ち悪くないですか?」
「うん……平気です。ちょっと眠いくらい」
「けど、歩けないんじゃないですか?」
「うーん、どうだろ。今はそんな感じしないけど、けど私、タクシーに乗ったの覚えてないんですよね……」
「えっ」
永井は驚いて笑った。
「タクシーには普通に乗ってましたよ(笑)。大丈夫って言って。乗ってすぐ寝ましたけど」
「そうだったんだ。全然覚えてないです」
私も陽気に笑った。
そこでタクシーは永井の指示により一時停車し、「お疲れ様でした」の当然の一言を残して彼は帰ってしまう。
「はあ」
となんとなく一息ついて、ようやく思い出した。
そうだ、畑山には口止めされるかもしれない!
「ところで……」
うわっ、誰もいなくなったと思ったら、やっぱり突然喋り出した!
「……」
聞くだけ、聞こう。
「自宅はどのあたり?」
あまりにもあたりさわりないセリフのため、ずっこけそうになる。
「えっと……もう少しです、後5分くらい。スーパーの隣です」
「なるほど」
「あの、畑山部長の実家ってどのあたりですか?」
「もうちょっと奥かな」
「……」
「……」
何か言い出すに違いない。池内のこと、誰にも言わないでとか、もう一度釘を刺して来るにちがいない。
「……」
だが畑山は黙ったままだ、それに痺れをきらした私は、少し自分から言ってみることにする。
「あ、あのー……。あの、あの、さっきのことなんですけど……」
「さっき? 何?」
畑山は暗がりの中、じっとこちらを見つめた。
「えっと、あの、さっきの食事会の途中のことなんですけど」
「うん、何かな?」
えー!? こっちから言わなきゃダメなの!? 絶対気付いてるでしょ、この人!!
「あの、だから、その。池内さんの、ことなんですけど!」
「うん、池内さんが、何?」
本気かこの人!? と、私は相手の顔をまじまじと見た。
「え……畑山部長って、池内さんが好きなんじゃないんですか?」
じっと見つめて聞いた。相手の顔は暗くてよく分からなかったが、おそらく無表情に近いとは思う。
「さあ……どうかな」
えええー!? ここで、どうかな? とか、あり!?!?
「ち、違うんですか?」
い、一応念のために聞いておこう。それほど失礼には当たらないはずだ。
「うん、正確に言えばちょっと違う」
あ、まあ、そうかあ……。人妻を好きって、堂々とは言えないかな……。
「では……ナイショ、という方向で……」
「さっきは思いっきり方向ズラしてたじゃない」
畑山は笑ったが、私は気にしていたことをつつかれて、肩をすぼめた。
「あれ、気にしてた?」
笑わない私に気付いた畑山は、身体をこちらに向けた。
「……少し……」
「大丈夫、もしそんな噂が出回っても、誰も信じないから」
まあ、相手が人妻で、正統派っぽい部長が好きだと言っても、本気にはとられないかもしれないけど……。
その前に、そんな噂が出回ったら、って、私、やっぱりあんまり信用されてない?