晴明の悪点
「外道の貴公子とはよく言ったものだねえ・・・存外、可愛いじゃないか」
「たれが可愛い、だ」
ぐるる、と牙をむいて見せたが、天将に至っては人間などおそるるに足らず。
彼の様子でさえ、生まれて間もない童にしか見えない。
「それで、どんな相手なんだい?えっ?好きというからには抱けたんだろうねえ」
朱雀は羞恥を知らない。
抱くどころか、天冥もとい多優は、生前の莢には指一本とも触れてはいない。
いづれはどこかの家へと召されてくれることを望んでいたのだ。
抱くはずがなかろう。
いくらそれが、彼と件の薬師の女が互いを想っていても、だ。
今は――死人であるはずだ。
「死んだぞ、残念ながらな」
別に朱雀にとって残念なことは何もないが、天冥は言うのだった。
「あら、死んだのかい。そりゃよかったねえ」
「なに」
「今、この都で死者が蘇ってきてるのさ。あんたの想い人も、蘇ってくるかもしれぬよ」
にやりと、朱雀が笑う。
傍ら天一は、その途端に笑みを消す。
「――死者は、蘇らぬ」
む、と天冥は眼を光らせた。
「いくら魂が一時的に戻ってきたとて、所詮は死魂ぞ。
完全な人間としての身体、がなければ、この世には残れぬ」
「そうじゃな」
「逆に器さえあれば、あとは魂が入るだけで人に戻る。だがそれも――」
天一の不気味に黒い髪がうねった。
「うまあく、誰か術使いが背中を押してやらねば、出来ぬことだがな」