晴明の悪点


「すみませぬ・・・それで、どうなさったのですか」

 話を戻す清明を、我に返って改めて遠子はいつもの強気な目で彼を見た。

「だから、死者が蘇っているけれど、冴子は戻ってこないの」

「―――」

「私の周りでも、蘇ってきた人を何人か見てきたわ。

けれど、冴子だけが戻ってこないの」

 遠子の言い方は、期待外れだと言っているようだった。

 死んだであろう冴子が戻ってくることを、遠子は期待していた。

しかし、冴子が戻ってこない。

それにおかしいと異変に思う傍ら、なぜ戻ってこないのかという当たり所のない悲哀があった。

「だから、もしかしたらこれは」

「これは・・・」

「陰陽師が、特定の人を蘇らせる、たいざん・・・とかいう、術があるでしょう。

それかもしれないと思って」

「泰山府君祭――それで、冴子様も蘇らせようと」

「違うわよ」

 その時、遠子は半ば怒号にも似た声で言った。

それに清明はひるんでそのなで肩を跳ね上げた。

恐る恐る見てみれば、遠子は弱った顔で清明を見ていた。

「冴子が死んでから葬られるはずの日までの二日間、その間で、冴子の体が消えたの」

「亡くなられたのに、体が消えていたのですか?」

「変でしょう。そのまま、冴子の死体がないまま、あの子は葬られることもなかったのよ」

「あっ」

 そこで、清明の中である仮説がたった。

 死人の魂は、抜け殻となった器がなければその身に入ることができない。

つまり、仮説はこうだ。

 山や土の中に、原型を残したまま葬られた死人だけが、蘇って戻ってきたのではないか。

 遠子がおかしいと思っていることは、おそらくそのことだろう。

 死体の無い死人だけが戻ってくるとは、どういうことか。

 もしや誰かが泰山府君祭を執り行っているのではないか、だろう。




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