晴明の悪点


 蓬丸は床のほうに行き、跳ねるように駆けてゆく。

 
下級役人である清明の家は小さい。


安倍晴明の屋敷とは雲泥の差がある。


庭こそあるが、走り回れるほど広くなく、小さな芝にも似た雑草が生えている。


上空から見た広さは、現代の一般市民の家と変わらない。
 

 清明は奥の部屋に行き、窮屈な烏帽子を外す。

女のように滑らかな髪が腰まで垂れる。

ある程度切りそろえられた前髪が眉を隠す。


 旋毛のあたりで結い上げられた髪を直す前に、清明は直衣を脱ぎ、

淡い水色の着物を着て白い水干をまとった。

首かみ紐を結び、うなじのあたりで髪を結う。

やはりこの装束は着なれていて楽である。


 清明は簀子に座してやっと一息をついた。


「最近は平和なものですね。妖かしに関しては」


 蓬丸が平穏さの感じられない表情で言った。

言えている。

たとえ妖かしの害が消えようとも、この都には貧しさゆえに死んでしまった人間の死体が転がっている。

そんなことがあるようでは、人にも都にも平穏はとわに訪れることはないだろう。







 



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