晴明の悪点


「そう、なの?」

 わずかに、遠子の顔に懸念が発露した。

「いっ、いいえっ、だんじて手があかぬわけではございませぬ。

――ましてや、遠子様にそのようなご心配をかけるなど、・・・」

 清明は言い募ることができなかった。

 言葉にならないというのとはまた違うが、混乱故なのか口ごもっているのか、言い切れなかったのだった。

「――だったら、また何かあったらここまで来るわ」

 ちょうどそれは、白兎のような幼げな白い肌を持つ簡素な服装の、薬草やらが入った籠を担いだ女が、

通り過ぎて行ったのと同時だった。

「なっ」

 清明は極限までその撫で肩を跳ね上げたのだった。

「そんなこと、あなたに申し訳がない。禍物であれば我らで何とかいたしまする。

なにも、なんの繋がりもない貴女様にそうまでさせるなど、もってのほかでございます」

「繋がりなら、あるわ」

「――」

「あなたは、私を助けてくれたじゃない」

 そこを言われてしまうと、清明も返す言葉がない。

 清明のような者が、高貴の者に従うのは当然のことである。

しかし、それを遠子は、「助けてくれた」と言った。

あたかも、ほんの髪の毛の先ほどでも繋がりがあるように。

「私は、今まで守られているばかりで、誰のことも助けたことがないの」

「しかし・・・」

「私はたかだか小物かもしれないけれど、少しでも誰かの手助けをしたいのよ」



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