晴明の悪点


 遠子は、心臓から下が冷えていくような感覚に襲われた。

体内に重い氷塊がぶら下がっている、と例えるのが正しい。

 深々と頭を下げて背を向ける清明の背に手を伸ばしかけ、遠子はそれを一瞬ためらった。

自分が発言することを許されなかったことに対しての憤りよりも、

役に立てないことに対する己の非力さやら―――その他もろもろの思いが遠子の中で湧き上がり、

遠子は遠ざかっていく女のような背中に向かって、


「こら清明!話は終わっていないわよ!」

 と、強気に言うことができなかった。

 


































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