晴明の悪点
「・・・すまないね、蓬丸」
清明はすまなさそうに、懐に潜り込んだまま出てこない蓬丸に語りかけた。
彼の懐から、ひらりと一枚の蓬の葉が舞い上がる。
「清明様が、言い過ぎたのではございませぬ」
私がおいたをし過ぎたのでございます。
そう言う葉、蓬丸はたいそういじけた声で清明の後ろのあたりを舞った。
「――そなたの気持ちは分かる。
初めて気が合った女の方だから、出来るだけ姫様を失望させたくなかったのだね」
「清明様は、私は男だから分からぬ、と言うのでしょう」
蓬丸が皮肉っぽく言ったのだと、清明は分かった。
彼女の気持ちだけは、本当に分かっているつもりだった。
清明は美貌であれど大人しくあまり社交的ではないから、友などほとんどいない。
蓬丸くらいお転婆で元気なら、たとえ式神でも意志がある彼女は友達がほしくなるだろう。
「私は、遠子様を守ることができる自信がありましてございます」
「蓬丸・・・」
「私なら清明様を遠子様も、傷一つ付けず守り抜ける」
「そなたは確かに強い、けれど相手がそれ以上だったらどうするのだ」
清明は優しげな口調で言った。
「姫様に何かあれば私の首一つではきっと足らぬ。
悪いけれど、姫様を巻き添えにしてはならぬよ」
そう、誰も巻き込んではならぬ。
それこそ自分に関わった人が、自分の行動判断によって傷つくなど以ての外である。
ましてや遠子は、己などのために自らあんなことを言い出したのだ。
人の善意に甘えて、犠牲を増やすわけにはいかない。
しかしそれは天冥などの者にとって、何気なく気に食わない正義感だったりする。
蓬丸でさえ、時々彼の性質に愛想を尽かしかける。